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向の繊維分布が異なる円筒構造、応力分布を場所により制御した成形体、FW管を積層した構造などが該当する(岡本,1991)。
竹を例にとってみると、維管束鞘(道管と師管)で柔細胞を強化した繊維強化複合材料とみなせる。竹の稈部断面の繊維分布については、最小材料で最大の曲げ強度・曲げ剛性を発揮していることが示されている(尾田,1980;池上,1985)。一方、節部は、円筒稈部の偏平座屈防止と一方向強化性の稈部のき裂伝播防止の両方に寄与している。節部の維管束は、竹の子の段階では半径方向の配向が圧倒的に多いが、タケになると[円周方向/半径方向/円周方向]の積層構造になっている。つまり成長につれて、風雪が作用する曲げモーメントの大きさに適応して、節部は維管束鞘の分布を変化させている円板構造物とみなせる。
現在のところ、このような環境に応じて繊維分布を最適化していく複合材料構造体はない。多少、過剰設計にして材料コストが高くなっても、成形コストの安い方が工業的には有利であるからである。しかし構造体の知能化を考える場合、この竹の節部はひとつの手本を示しているといえる。
生体は多機能複合材料である。多機能の由来は、生体がサブ構造からなる階層的な構造システムだからである。下位レベルの構造の相互作用を制御することで上位の構造レベルでの秩序が形成されて、新たな機能が出現する。人工材料をどう階層構造化すれば新しい機能がひきだされるかという逆設計問題は今後の課題である。
生体をいろいろな構造レベルでまねて人工物をつくる考え自体は、目新しいものではない。しかしバイオミメティック・デザインによる工業化例は、まだまだ少ないのが現状である。たとえば光学的機能の例では、蝶の羽の構造をまねて、濃色効果をだした多重偏平(マルチスパイラル)繊維などが散見される(平野,1988)。まだ新機能をもった材料や構造を開発する概念設計すら、未開拓といえる。
竹に学ぶ例は力学的機能についての視点であるが、生体機能をまねた構造としては、力学的機能と熱的・光学的・電気的などの機能を複合化したり、二つの機能がカップリングするような多機能複合材料も、先端複合材料として期待できる。
これまでの機能材料設計では、より単純で純粋な要素を追求してきた。たとえば半導体産業では純度の高い材料、あるいは形状のそろった材料が機能を制していた。しかし生体に学ぶことで、「形状、純度、特性などの信頼性が低い材料からでも、信頼性の高い構造をつくること」や「使い初めは少々いい加減な材料/構造であっても、力学的、熱的などの環境に適応・変化させて、そこそこの機能をもった構造にしたてあげること」などが今後の材料設計の夢として描くことができる。これらの方向は、安価な機能材料/構造をうるための今後のひとつの方

 

 

 

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